学生時代まっただ中だったにもかかわらず、早くも学生時代を懐かしむ小説に感動していた。
本との出会いなんて偶然以外の何物でもないのは当たり前だけれど、この小説を手に取ったのはこれまたほんの偶然の成り行きからだった。TBSテレビ「情熱大陸」で、本の装丁専門のデザイナーを取り上げた回があり、その時に紹介されていたデザイナーの仕事が、豊島ミホの「檸檬のころ」の装丁デザインだったのだ。まぁ、仕事にこだわりを持つのは賞賛すべきことだけれど、デザイナー本人のなにやら偉そうな感じに違和感を覚えた記憶がある。執筆した作家本人がかわいそうになるくらい、ないがしろにされていた様な気がした。なんにしろ、偉そうだったことは間違いない。そんなわけで、「そこまで自信満々に作った装丁ってどんなものよ?」と思い、手に取ることになった。
はたして、デザイナーが豪語していた装丁は素晴らしいものだった。影絵のように凝っているがシンプルな黄色い装丁は、「檸檬のころ」というタイトルにぴったりだったし、他の本に類を見ないような完成度だったのだ。そして、小説の中身はまだ学生だった自分の身に染みた。
中身はとある田舎の高校を舞台に、何人かの男女それぞれの視点から学生生活が描かれる短編集だ。それぞれの短編は微妙に繋がりがあるものもあれば、全く繋がりがないものもある。ただし、順番を入れ替えてはちぐはぐな本になってしまうので、大人しくページ順に読み進めるのが正しい。一人の主人公を軸にした話の方が好きだが、それとなく関連付けされた短編をまとめるというのも、なかなかオツな書き方だなと妙に感心してしまう。それくらい絶妙な短編集なのだ。
登場する男女にハッピーエンドはなかなか訪れない。誰しもが経験しそうな青春時代ならではの失恋とか挫折を経験するところで、だいたいの話は終わってしまう。それが青春の現実な様な気がするから、この話は共感を呼ぶのだと思う。「あぁ、こういう感覚あるある」と思わせるからこそ、読者を惹き付けたはずだ。学生時代の自分は、リアルタイムで感じていた悔しい気持ちと重ねたのかもしれない。
大人になればなるほど、好きな人ができて、なんとか気持ちを伝えて、ようやく付き合うまで漕ぎ着けて…と、時間をかけた恋愛をなかなかしなくなる。そんな時に思い出したようにこの本を読むと、自分がそんな恋愛を経験したかどうかに関わらず、なぜか胸が締め付けられるような思いがするだろう。誰も好きこのんで悲しい気持ちになったり、悔しい気持ちになったりしたいわけではないと思うけれど、こういう類の本にはその力がある。展開にハラハラしたり、現実にはないような話も確かに楽しいけれど、本棚に一冊あれば、人生にきっと役立つ。
豊島ミホ「檸檬のころ」を気に入った方には、森絵都の「永遠の出口」や重松清の「鉄のライオン」もオススメする。多少時代設定や追いかけている年齢が違うが、感傷に浸らせてくれること間違いない。