たとえ刊行に時間がかかっても、読み返すたびに青春を感じ、時には泣けてくる。
それは、自分がこのシリーズと出会ったのが、中学生の頃だったからではないだろうか。SF小説に「青春」はそぐわない気がするが、若い2人の主人公の成長が見られるこの星界シリーズについてはぴったりだと個人的には思う。「星界の紋章」と「星界の戦旗」は、星間航行に適した遺伝子改造をされた民族「アーヴ」の王女であるラフィールと、アーヴにより侵略された惑星ハイド出身のジントを中心に展開するSF小説だ。「星界の紋章」の第1巻は1996年に発売され、以降、細々と続いている。2013年2月には、ようやく待望の「星界の戦旗V」が発売された。
成り行きで出会うことになった2人は、折しも始まってしまったアーヴと敵対国家の戦闘に巻き込まれ、お互いを助け合いながら生き延びる(「星界の紋章」)。そして、強い絆で結ばれた2人は、アーブの星界軍に所属し、戦艦の艦長と書記という立場で、戦争を生き抜いていく(「星界の戦旗」)。これだけを書くと、「SF小説に恋愛を詰め込んだだけか」と思われるかもしれない。しかし、むしろ恋愛要素などほんの少ししかなく、単純に、苦難を乗り越えていく2人の活躍に、読み応えを感じるのだ。ところどころに織り込まれる離別や再会といった名場面には、目頭が熱くなる。
ラフィールは、自らの遺伝子に刻まれた宿命とその出自に従い、敢えて戦いに身を投じる。対して、アーヴではないジントは、アーヴに侵略されて以降の自分の数奇な運命に翻弄されつつ、ラフィールを傍で支えていくことを決意する。遺伝子改造されたラフィールは、寿命も長く、老化もない。遺伝子改造もしていないジントが、自分の一生をかけて支えていこうとする決意には感動を覚えた。気弱で飄々とした印象の強いジントが持つ優しさと、いつも強気だが時にはジントに対して弱い面も見せるラフィールの組み合わせが、本作の見所のひとつではないかと思う。
もうひとつの見所は、作者の描くアーヴ帝国の世界観だろう。広大な宇宙を支配する帝国であるにも関わらず、皇帝や貴族が存在し、守るべき伝統や格式がある。そして、作者が本作のためだけに考案した、アーヴ語が重要な単語には当てはめられ、ルビが振られているおかげで、独特の世界観を味わうことができるのだ。単なる宇宙戦争を描いたSF小説と侮ることなかれ。巻を追うごとに広がりを見せるひとつの世界は、いくら発売から時間が経っても魅力的なのだ。
残念なことに、「星界の戦旗」シリーズは、このまま完結しないのではないかという疑惑がある。第4巻が発売されたのが2005年だが、第5巻が発売されたのは2013年である(その後、2018年に待望の第6巻が発売。)。作者の病気も重なったようだが、さすがにそれだけ間隔が空いてしまうと、様々な不安を覚える。幸いなことに、8年間のブランクがあっても、以前と変わらないレベルの作品を読むことができたが、今後も定期的に続巻を読めればと作者には期待したい。続きが読めるならば、そのたびに旧作を読み返すのも苦痛ではない。願わくば、ラフィールとジントの行く末を、最後まで見届けることができればと思う。