年上の女性との恋愛に憧れるのも、広い意味では厨二病の範疇に入るのではないかという気もする。
というのも、「年上のお姉さんが好き」と思えるのは、まさに中高生だからであり、社会に出て働き始めた男が年上の女性に恋愛感情を抱いていたとしても、それは「年上のお姉さん」を好きになっているのではなく、その女性を「対等な恋愛対象」として見ているのではないかと思えるからだ。
「おいしいコーヒーの入れ方」は、これでもかと言うくらい「ベタ」な恋愛小説だ。村山由佳の受賞作にしてデビュー作「天使の卵」がそうであったように、複雑な人間関係をいっさい排して、なんの捻りもない恋愛小説を仕立て上げたところに、読者は好感を持つのだと思う。確かに、主人公には恋の成就を阻む障害がいくつも立ちはだかるのだけれど、「不治の病」のように克服できない類のものではなく、読者は安心していつか訪れるはずのハッピーエンドを待っていられたのだった。
主人公の和泉勝利は、年上の女性にして、かつ従兄弟の花村かれんに恋をする。しかし、花村かれんには出生の秘密があり、二人には血の繋がりがあるわけではない。外見上は従兄弟であるように振る舞いながらも、少しずつ距離を縮めていくというのがシリーズのストーリーだ。これまで16巻発売されており、クライマックスを予感させながらも終わりを見せない。
私がこの作品に出会ったのは、中学生の頃にNHKFMの「青春アドベンチャー」にて、ラジオドラマが放送されていたからだった。そして、このラジオドラマの出来は相当良くできていた。和泉勝利の声も花村かれんの声も、代わりはいないのではないかと今でも思う。作者とサイン会で話す機会があったのだが、村山由佳本人からも「ラジオドラマのCDを発売する計画はある」というセリフを聞けただけあって、作品の良さを引き出しつつ、かなり評判がよかったのは間違いない。ラジオドラマにハマった後は、当然ながら原作を読み進めることになり、以後毎年のように新作を買っていた。
単純な恋愛小説だけあって、読むのには苦労しない。1年に1回訪れる爽やかな読了感は、作者からのありがたいプレゼントだった気がする。いつしか自分も「こんな恋愛がしたい。あわよくばこんな年上の女性と」と思うようにはなっていた。そんな憧れを持ってしまったからこそ、現実の恋愛で苦労してしまい、今でも引きずっているところがあるから困ったものである。
というわけで、あっさりと恋愛小説を楽しみたかったり、気持ちのいい暇つぶしをしたい人には「おいしいコーヒーの入れ方」略して「おいコー」シリーズはオススメの一冊となる(「おいコー」ほど爽やかではないが、年上の女性との恋愛を描いた作品としては、盛田隆二の「夜の果てまで」もオススメする)。苦しいくらい相手に夢中になってしまう描写は、若かりし頃の自分と重ね、誰でも共感できるはずだ。しかし、引き延ばし過ぎたシリーズ物の宿命か、読者の期待を裏切り続ける展開が続いているせいか、最近の巻は冗長気味で長年のファン離れを招いてしまっている。作中の2人の幸せを見届けたいところだが、蛇行してしまっている恋愛小説を読むよりも、自分なりの幸せを探す方が大事なようにも思えてしまう今日この頃である。