前回までの記事では「総論」と題して、自身の英語力の現状や英語学習の経緯を俯瞰してきたが、今回からは「各論」と題して、英語学習における特定のトピックについて考えを述べていきたい。初回は、英語学習者の多くが何らの関わりがあるTOEIC LRテストについて述べる。
1.TOEICと英語力
英語学習法について検索すると、「TOEICのハイスコア獲得と英語力には関係がないから、英語ができるようになりたければTOEICの勉強など無意味である。」と主張する人が一定数見つかる。自分の経験を踏まえれば、このような考え方は正しくなく、「TOEICの勉強は英語力の基礎作りに必ず直結する。」と言える。長期的に英語力を伸ばしたいと考えていて現在はTOEICに注力している人は、雑音に惑わされず、TOEICスコアを伸ばすための学習を継続してほしいと思う。また、英語学習を独学で始めたいと考えている人は、まずTOEICの勉強から始めることをお勧めする。TOEICは、英語学習のモチベーション維持と、基礎力の獲得において優れているからだ。
私の場合も、自主的な英語学習の本格的な出発点は履歴書に書くTOEICスコアのための勉強だった。大学時代のTOEIC620から少しずつスコアを積み上げ、10年以上かけてTOEIC950を超えるまでになったが、定期的かつコスト面で気軽に受験できるTOEICが示すスコアは英語学習を継続するための優れたペースメーカーとして機能してくれた。スコアが上がると、自分の勉強が間違ってなかったのだと思うことができるし、今後も勉強を続けようという気にさせてくれる。可能な限り定期的に受験し続けることで、数字として成果が表れ、ゲーム感覚で次もチャレンジしてみようかという気になる。つまり、社会人の英語学習にとって最も重要であると考えるモチベーション維持に繋がる。残念ながら、TOEIC950を超えるとほとんどの学習者は、スコアの伸びに限界を迎えてしまうと考えられるため、TOEICに頼った学習ができなくなる。一方で、TOEIC700~900程度の学習者は、比較的容易にスコアを伸ばす余地があるため、TOEICをペースメーカーとして活用できることに感謝すべきだと思う。
恐らく、スコアを伸ばすためには、公式問題集を含むTOEIC対策のベストセラー本を何冊もこなすことになる。TOEICに用いられるある意味特殊なビジネス英語に注力するやり方は、汎用性がないなどと批判されることもあるが、それでも、ゲーム感覚で伸ばしたTOEICスコアに意味はある。暗記だけではTOEICのハイスコアは獲得できないからだ。リスニングを正確に聞き取る能力や時間内に大量の英文を読みこなす能力は、TOEICの勉強を続ける中で培われるし、TOEIC以外の場面でも有効に機能する。TOEICのリスニングテストで流れる音声は発音が綺麗かつゆっくり過ぎると指摘されることもあるが、そもそも英語初級者~中級者は一般人のナチュラルな英語を聞き取ることなど無理なのだから、まずは整った英語を聞き取ることができるようにすることは、最初の一歩として妥当ではないだろうか。
2.TOEIC勉強法
巷では「TOEIC800/900ホルダーが教える勉強法!」のようなコンテンツが溢れているが、TOEIC学習者はそういったコンテンツに惑わされないようにすべきではないかと思う。TOEIC800や900というスコアは、響きとしては高得点であるけれども、実際は英語学習初期の通過点に過ぎない。TOEIC800/900あたりでスコアが停滞している人から学習方法を学ぼうとしても、同じく自分自身がスコアの停滞に陥る可能性すらある。勉強法を習うなら、TOEIC950超か、むしろ満点(990)を獲得している人に注目すべきだ。小手先ではなく、長期的な学習経験を踏まえたアドバイスを提供している可能性が高い。
私自身がオススメする勉強は、特段変わったものはなく、ひたすら公式問題集や良質な問題集をこなすというものだ。英会話学校等で習うことや、高価な教材に手を出す必要もない。新公式問題集を解く、間違えたところを調べる、知らなかった単語や熟語は覚える、音源を繰り返し聞く、時間を空けて解き直すことこそが基本だ。重い公式問題集を持ち歩くのは現実的でないので、通勤時間中には特急シリーズや千本ノックシリーズに取り組むのが良い。帰宅後や週末に勉強する際には公式問題集を用いることにし、平日は手軽な特急シリーズ等に取り組みことで時間を無駄にせずに済む。これらの問題集はコンパクトだが、TOEICテスト対策のために必要なポイントを効果的に網羅しており、非常に価値があると感じた。なお、公式問題集の答え合わせをする際に、正しい答えや解説が理解できない場合には、TOEICを受験する以前に英文法の基礎的な知識が欠けていると思われるため、一億人の英文法に代表される人気の文法書を活用する必要がある。
・TOEIC TEST 特急シリーズ(金のフレーズ、文法特急等)
・千本ノックシリーズ
・(必要であれば)文法書(一億人の英文法等)
公式問題集と特急シリーズ等を組み合わせた勉強法を一年以上続けてもスコアが目に見えて上がらない場合は、①リスニングも含めた公式問題集の復習が出来ていない、②復習をする際に必要な基礎的な英文法の知識がない、又は③英語を読んだり聞いたりする機会が絶対的に足りない、のいずれかが原因ではないかと思われる。
①については、しっかり復習をし、繰り返し同じ問題集を解くしかない。②については、文法書を読み込んだり、あるいはTOEIC頻出の文法について深掘りしたりすることが必要になると思われる。が、自分の経験では、文法書のように体系的に説明できなくても、感覚的に理解しておくだけでも英語は理解できるものだと思うので、あまり神経質になる必要はないのかもしれない。③については、気分転換がてら、興味のある英語のニュースを読んだり聞いたりすることで、英語そのものに接する時間を増やすことができ、TOEIC学習との相乗効果が期待できる。