ONE AND ONLY !!

By wps.

芯の座った小説の持つ力(真保裕一「繋がれた明日」)

趣向を凝らしすぎず、普遍的なテーマを簡潔に描く小説は強い。

これまでの記事で白石一文や村山由佳の作品を紹介する中で、学生の頃と比べ、社会人となった今では読後感が変わってきた話をした。それは、人付き合いや恋愛に対する自分の考え方が変わってきてしまったからだろう。昔は夢中になった作品の全てが、時間が経てば陳腐に思えてしまうのだとすれば、なかなか自分の本棚を維持するのも手間がかかる。その点で真保裕一の「繋がれた明日」は、今なお本棚の中で抜群の安定感を誇っていた。

織田裕二主演の映画「ホワイトアウト」や「アマルフィ」などの原作者として有名な真保裕一は、かなり間口の広い作家というイメージがある。様々な業種やテーマに関する作品をコンスタントに打ち出しており、幅広い層の読者を獲得しているのではないだろうか。あいにく、様々な作品を発表していても、当たり外れは確実に存在しているが、「繋がれた明日」は必読の一冊だと思う。他にオススメできるものと言ったら、青春小説「ストロボ」も好きだ。

主人公は喧嘩の末に偶然持ち合わせていたナイフで人を殺めてしまう。数年の服役を終えて出所した主人公を待ち受けていたのは、殺人犯というレッテルがどこまでもつきまとう、厳しい現実だった…。そんなシンプルなストーリーだが、ポイントを押さえた展開が一気に読者を引き込んでくる。真面目に社会復帰を目指そうにも、自分の過去のせいで一向に報われない主人公の行く末を案じてしまうのだ。この作品は「週刊朝日」に連載されており、私はたまたま立ち読みしたのをきっかけに続きがどうしても気になってしまった。単行本化されたのを書店で目にした時の心の躍りようは今でも憶えている。

主人公は、殴られた末の正当防衛のはずなのに、目撃者である被害者の友人に虚偽の証言をされたために服役することになってしまったと思っている。だからこそ、いつまでも「なんで俺がこんな目に」という感覚が消えず、自分の犯した「殺人」を抱えられずに生きている。そんな描写に共感出来ず、作品に良いイメージを持たない人もいるだろう。しかし私は、誰かのせいにしたくなる主人公の気持ちがわからなくない。誰もが自分の犯した罪に責任を持てれば、そもそも犯罪などおきないはずだ。小説を利用して、罪を犯した人間が陥りやすい心境を描いたところに、この作品の意義があると思う。

事件後に世間から隠れるように生きてきた母親、恋人に自分の兄が殺人者であることを伝えていなかった妹、主人公を受け入れようとしてくれる勤務先の人間や保護司、犯罪者という目でしか見れない警官たち。奇抜なキャラクターはいないが、現実に起こりうる展開を固める登場人物も魅力的な要素の一つだ。これからも何度も「殺人犯のその後」を読み返し、自分なりに思いを巡らせることになるだろう。

投稿:8/15/2012